穏やかな心が人を変える 1128


穏やかな心を持った良寛さんが、人の心を変えたエピソードを紹介します。

良寛さんは、江戸時代の末期に、現在の新潟に住んでいた僧です。
檀家(だんか)を持たず、村人から掛け軸の「書」の依頼があると、引き受けて、そのお礼に米や味噌などをもらって、暮らしていたといいますから、まあ、つつましい生活です。

決して偉ぶらず、文字が書けない人の代わりに、手紙を書いてあげたり、いつも懐(ふところ)に手まりを入れていて、それを出しては、子どもたちと遊んだりと、穏やかに過ごしていましたから、村人たちは、大層な人気がありました。

この人気を妬(ねた)んだのが、ひねくれ者の番頭です。
この番頭、「もし良寛のヤツが、俺の渡し舟に乗ることがあったら、わざと舟を揺らして、川に落としてやろう」と、とんでもないことを考えて、機会をうかがっていました。

そんなある日。
ついにチャンスが。
船頭の悪だくみなど、知るよしもない良寛さんが、1人でこの船頭の舟に乗りに来たのです。
舟がちょうど川の真ん中あたりまで来たところで、わざと舟を揺らす船頭。
たまらず川に落ちてしまう良寛さん。

泳げなかった良寛さんは、溺れてしまいます。
たっぷりと水を飲んで、もう死にそうというところで、この船頭、良寛さんの襟首(えりくび)をつかんで、舟に引き上げます。
水を吐き、やっと言葉を発することができるようになった良寛さん。
船頭がわざと自分を川に落としたことをわかったうえで、この船頭に対して、こう言ったのです。

「助けてくれてありがとう。あなたは、命の恩人です。この恩は、一生忘れません」

面をくらったのは、この船頭です。
てっきり恨みの言葉をあびせてくると思っていたのに、良寛さんのこの言葉に、衝撃を受けます。
そして、こう思ったのです。

なじられて当たり前の意地悪をしたのに、この人は自分にお礼を言っている。
自分はどうして、こんな素晴らしい人のことを、妬んでいたのだろう。
いつから自分は、こんなにひねくれた人間に、なってしまったんだろう。

その日の夜、船頭は酒を持って、良寛さんの庵(いおり)を訪ね、昼間の自分のおこないを心から詫びました。
良寛さんは、わざわざ訪ねてきた彼を心から歓迎し、その夜、2人はゆっくり酒を飲み交わしたのです。

どんなことにも、穏やかな心が、人を変えるのです。
すっかり心を入れ替え、いい人に生まれ変われるのです。

2024年02月09日