特別なお客様を喜ぼう 1139


かって「経営の神様」と呼ばれた故松下幸之助さんが、ある先輩から聞き、「何十年も、ずっと心に残っている」と、語っていた話を紹介します。

ある老舗(しにせ)の和菓子屋さん。
そのお店に、ある日、1人の物乞いが、まんじゅうを買いに来ました。
そのお店の小僧さんは、1個のまんじゅうを包んだものの、慣れない相手に、少し気おくれしてしまい、手渡しするのを躊躇(ちゅうちょ)します。

その姿を見た店の主人が、声をかけたのです。
「ちょいとお待ち、それは私が、お渡ししよう」

そう言うと、主人は、自ら物乞いにまんじゅうを渡しました。
そして、代金を受け取ると、「まことにありがとうございます」と、いつにも増して、深々と頭を下げたのだそうです。

物乞いが帰った後、小僧さんは、ご主人に聞きます。
「ご主人は今まで、どんなにご贔屓(ひいき)のお客様にも、ご自分で品物をお渡しになったことがありませんでした。それなのに、今日はどうしてご主人が、ご自身でお渡しになったのですか?」

すると、主人は、次のような内容のことを、言ったのです。

「おまえが、不思議に思うのも無理はないが、よう覚えておきや。今の人は、特別なお客様なんや。いつもご贔屓にしてくれるお客様は、みんなお金持ちばかりや。それに比べて、たぶんさっきのお客様は、死ぬまでにいっぺんは、うちのまんじゅうを食べてみたいと考えて、なけなしの全財産をはたいて、買(こ)うてくださった。こんなに有り難いことはない。まさに商売冥利(みょうり)に尽きるとは、このことや。そんな、特別なお客様に、主人の私みずからが礼を尽くすのは、商売人として、当然のことやろ」

たった1個のまんじゅうを買った物乞いへ、老舗のご主人が、礼を尽くした話です。
松下幸之助さんは、この話をよくされては、「このようなことに、喜びを感じるのが、商売人の本当の姿ではないか」と、語っていたそうです。

特別なお客様を、心から喜ぶことができる感性を、いつまでも大切にしましょう。

2024年04月26日