人間の命より価値があるものはない 1045


長寿漫画『美味しんぼ』の中に、こんなシーンがあります。

場所は、さる料亭。
主人公の山岡士郎と人間国宝の陶芸家で、士郎をかわいがっている、唐山陶人センセイ、そして、二木という名の大銀行の会長がいます。

その席で陶人さんが、二木会長へ自作の茶器を、贈ろうとします。
人間国宝から会心の作を渡されて、ご満悦の会長。
そこへ料理が運ばれてきて、事件が起こります。

なんと、仲居の女性が、手をすべらせて落とした皿が、陶人作の茶器を直撃。
ものの見事にその一部が、欠けてしまうのです。

怒り狂う二木会長。
「唐山陶人先生は、人間国宝だぞ! 先生の作品は、国の宝だ! 謝ってすむことではないぞ! 金でも償えない!」

泣きながら「このお詫びは、死んで致します」と謝る仲居。
「使用人の不始末は、私の責任です。私が命にかえまして」と、仲居をかばう女将(おかみ)。

それを見ていた士郎は、自分が学生の頃、父である陶芸家の海原雄山が、大切にしていた皿を割り、激怒されたことを思い出していました。

そして、おもむろに席を立つと、料亭の厨房へ行き、そば粉をもらって部屋に戻り、なんと、はじが欠けた茶器に、そば粉を入れて湯を注ぎ、ハシでこねてソバガキを作ってしまうのです。

あ然とする二木会長に、士郎はこう言います。

「なにが人間国宝だよ、芸術作品だよ。もとはと言えば、陶人のじいさんが、ドロこねまわして、焼いただけじゃないか。そんな物が、人間の命と同じ価値が、あるというのかよ」

士郎が言うように、芸術作品と言えども、本質はドロを焼いただけなのです。
そうした本質を忘れると、「お金(紙切れ)」や「ダイヤモンド(炭素のカタマリ)」のために、人を殺してしまったり、詐欺に引っかかってしまうのです。

価値があるものは「価値がある」と認めつつも、「モノの正体」について忘れず、「本質」を見抜くことを、大切にしましょう。
人間の命より、価値があるものなんて、この世には、何もないのです。

1人1人の人間の命こそ、最高に高価があるのです。

2022年06月24日