
ミステリーで、はじめから犯人が、わかっているタイプのものを「倒叙(とうじょ)モノ」と言います。
『刑事コロンボ』は、はじめから犯人が、わかっている話でした。
三谷幸喜が、脚本を書いた人気ドラマ、「古畑任三郎シリーズ」は、三谷と番組プロデューサーが「日本で刑事コロンボをやりたい」と考えて、企画した作品です。
独特のしゃべり方で、犯人を追いつめていく、スタイリッシュな古畑役の田村正和が、見事にハマって、高視聴率の人気番組になりました。
さてこれは、そんな人気ドラマの裏話。
ある時の事、まだ完成していない「台本」が誤って、田村正和へ渡ってしまった事がありました。
三谷幸喜は、スタッフを通じて「まだ、矛盾点がたくさんあるから、セリフは覚えないで」と、田村正和に伝えようとしたのですが、時すでに遅し。
田村正和は、自分のセリフを、全部頭に入れてしまったあとだったのです。
今さら、「台本を差し替えます」とは、言いづらい状況。
ピンチ到来です。
完成する前の台本のセリフを、田村正和に全部覚えられてしまった三谷幸喜。
このあといったい、どうしたでしょう?
古畑のセリフは、すべてそのままで、他の人物のセリフだけを変えて、物語のつじつまを合わせた。
まるで、パズルです。
三谷幸喜は、こう言っています。
「実はそういうのが、ボクは楽しいんですよ。無理難題が降りかかった時に、他の作家なら『無理です!』と言うところを『わかりました、なんとかしましょう』と。何でも受け入れながらも、いいものを創る、自分はそういうふうに、ありたいと思っている」
「制限のある中で、ベストの仕事をするのがプロ」なのです。
どんな時も、「なんとかしましょう」と、意欲を高めるのです。
