
塚原卜伝(つかはらぼくでん)という剣豪を、ご存じでしょうか。
囲炉裏(いろり)の前で食事をしている時に、背後から斬りかかられて、とっさに鍋のフタを楯がわりにした・・・というエピソードで有名な人です。
生涯に19回も真剣勝負(=本物の日本刀での命がけの勝負)をして、1度も負けなかったというのですから、強かったことは確かなようです。
さて、この卜伝さんが、3人の息子のうち、誰を自分の剣術の後継者にするかを、決めるためのテストをした、という話が残っています。
テストの方法は、「座敷の入口に、中に入ろうとすると頭に鞠(まり)が落ちるような仕掛けをして、どんな対処をするかを見る」というものでした。
まず、長男。
彼は、座敷に入る前に仕掛けに気がつき、その鞠を外してから、中に入りました。
次の次男。
彼は、座敷に入ろうとした瞬間、何かが頭に落ちてくることを感じて、刀に手をかけましたが、それが鞠だと気がつくと、そのまま座敷に入りました。
最後の三男。
彼は、頭に落ちてきた鞠を、とっさに抜いた刀で、ものの見事に真っ二つに斬ってから、座敷の中に、入りました。
さあ、この3人の息子のうち、剣豪・塚原卜伝が後継者に選んだのは、誰だと思いますか?
ちょっと考えると、落ちてきた鞠をとっさに斬った三男が、1番すごいように思えますよね。
でも、卜伝さんが後継者に選んだのは、長男でした。
理由は「危機を事前に察知する能力に、秀でているから」。
卜伝さんは、次男はある程度評価したものの、鞠を真っ二つに斬った三男に対しては、「未熟!」と断じたそうです。
「それくらいの危機を察知できないとは、修行が足りない!」というわけです。
中国の兵法書『孫子』の中にも、最高の勝ち方は「戦わずして勝つこと」とあります。
現代社会においても、「危機に陥ったときに、うまく処理できる人」よりも、「リスク管理がしっかりできていて、そもそも危機を回避できる人」のほうが、すぐれていることは、言うまでもないでしょう。
天下無敵の剣豪は、リスク管理という点でも、すぐれていたからこそ「無敵」を維持できたのかもしれません。
危機を事前に察知する能力は、安心・安全を確保してくれる素晴らしい能力なのです。
