捨てるものはない 1091


島田洋七(しまだようしち 漫才コンビで活躍)が、子どもの頃にいっしょに過ごした、おばあちゃん(佐賀のがばいばあちゃん)の思い出話です。

家の前の川を「スーパーマーケット」として、活用していたばあちゃん。
木の枝や野菜、果物のみならず、古くなった下駄や着物、ブリキの玩具、空き箱や空き瓶、誰が捨てるのか、流れてくるものは、何でも拾って再利用していた。

はじめは、捨てられたものを拾うことに抵抗があったし、友だちや近所の人に見られるのも恥ずかしかった。
でも、どんなものでも、それがばあちゃんの手で見事に、再利用されるさまを見ているうちに、だんだん面白くなってくる。

「拾うものはあっても、捨てるものはない」
ばあちゃんの言っていることは、ホントだと思うようになった。

ばあちゃんの「何でも再利用」は、これだけじゃない。
出かけるときは必ず、長い紐の先に磁石をくくりつけ、それを腰に巻きつけて歩くのだ。
そうすると、釘や鉄くずが磁石にくっついてくる。
バケツ一杯くらいはすぐにたまり、それを売ると割合にお金になった。

ある日のこと、俺とばあちゃんは、どこかに出かけようと、バスを待っていた。
もちろん、ばあちゃんは、その日も磁石つきの紐を、腰に巻きつけている。
バスが来て俺が先に乗り込んだが、ばあちゃんが、なかなか乗ってこない。
「ばあちゃん、どうしたの?」

振り返ってみると、ばあちゃんは、うんうん唸りながら、腰につけた紐を引っ張っている。
「大物だ、手伝え!」

「あの・・・」
そのとき、バスの運転手さんが、俺たちに声をかけた。
「磁石が、車体にくっついているみたいなんですけど・・・すみません、バスは持って帰らないでください」

ばあちゃんが、引っ張り上げようとした「大物」は、なんと「バス」だったのだ!
さすがの俺も、顔から火が出るほど、恥ずかしかった。

ばあちゃんにとって、世の中に、捨てるものは、何一つないのです。
必死になって、どんなものでも、大切にしているのです。

今の世の中は、悲しいことに、何でも気軽に捨ててしまう時代です。
しかし、ばあちゃんのように、全てのものを大事にする心が、とても大切なのでは、ないでしょうか。

2023年05月12日