全員最優秀賞 1096


かつて芸術家の岡本太郎は、子どもの絵の審査員を頼まれた際に、最後に壇上に上がって最優秀者の発表をする時に、こう言ったそうです。

「全員、最優秀賞です!」

「えっ? 全員ですか?」と、あわてる主催者たち。
「そう、全員すばらしい! 全員に賞をあげてください!」

なかなか痛快な話です。
そもそも岡本センセイ、「子どもこそ真の芸術家」と考えている人でしたから、子どもの絵に順位を付けるなどという愚行は、するわけがないのです。
センセイは、3歳くらいまでは、心のままに絵を描いていた子どもたちが、まわりの大人たちの目にさらされて。「うまい」とか「ヘタ」とか言われるうちに、絵を描くのをやめてしまうことについても、激しく批判しています。 

ここで、子どもの絵に関する「紙の金メダル」のお話をします。
美術教師をしている小林(仮名)が、ある時、小学校に代理教員として、絵を教えに行った時の話です。

授業では、児童たちに、校庭にある大きな木の写生を、させていました。
すると。
ひとりの児童が、木の幹を紫色に、塗っているではありませんか。
驚いた小林さんは、その子に話しかけます。
「よくあの木を見て? こういう色じゃないんじゃないかな?」
するとその子は、こう答えたのです。

「いいんだ! 僕は紫が1番好きな色なんだ。僕はこの木が、1番好きな木だ。だから、1番好きな色を、1番好きな木にあげたんだ!」

この言葉を聞いた小林さんは「やられた! 子どもに教えられた!」と思います。
しかし、今の教育では、木を紫に塗った子に「最高点」をあげることはできません。
考えた小林さんは、自分で紙の金メダルを作って、その子にあげたのです。
「学校の都合で、5点の評価はあげられないけど、先生はこの絵は、とても素晴らしいと思う。だから、特別にこの金メダルをあげます!」

そんな出来事から、何年も経ってからのこと。
小林さんは、ふと思い立って、この出来事をラジオ番組に、投稿します。
ハガキは採用され、放送。
すると、驚いたことに、たまたまその放送を聴いていた、あの時の児童本人(すでに大学生になっていました)から、小林先生のもとに、手紙が届いたのです。

その手紙には、こんなことが、書かれていました。
「あの時、先生からもらった金メダルは、今も大切に持っています」
手紙には、大学生になった彼が、あの金メダルを首からさげた写真が、同封されていました。

さらに、手紙の続きには、こうあったのです。
「僕は今、絵の勉強をしています。将来は画家になりたい、と思っています」

木の幹を紫色に染めた子。
その子の絵を、認めてあげた先生。
岡本太郎の考えが、正しいのがよくわかります。

全員が、最優秀賞なのです。
素晴らしい感性を、持っているのです。

2023年06月17日