
同じエレベーターに乗っている、女性がひいていたベビーカーの中の赤ちゃんが、ものすごい大声で、泣いていたことがあります。
それはもう、なりっぱなしの火災報知器というくらいの泣き声で、若いお母さんが、申し訳なさそうな顔をしながら、必死にあやしても、まったくその勢いは、衰えませんでした。
狭いエレベーターの中は、まるで絶叫マシーンのアトラクションのような状態に、なっていたのですね。
と、1人の年配の女性が、ベビーカーの中の赤ちゃんを見ながら、言います。
「元気が、イイですねぇ」
その言葉に、「ホントにすみません」と、返すお母さん。
と、今度は中年男性が、こう言ったのです。
「赤ん坊は、泣くのが、仕事だからなぁ」
その言葉に黙ってうなずく、同乗者の面々。
エレベーターの中の空気がなごみ、なんだか、そのお母さんも、救われたような表情になっていました。
夏の午後、15人ほどが乗った、都会の路線バスの静かな車内でのことです。
母親の腕に抱かれた、赤ちゃんが突然、ぐずり始め、10分経っても泣きやむ気配が、ありません。
周りへの迷惑を気にして、困り果てているお母さん。
と、そのとき、運転手の明るい口調のアナウンスが、車内に流れたのです。
「お母さん、大丈夫ですよ。
赤ちゃんですから、気になさらないでください。
きっと眠いか、お腹が空いているか、おむつが気持ちが悪いか、暑いか、といったところでしょうか」
ほんのちょっとしたひと言です。
でも、このひと言で、このお母さんは、どれだけ救われたでしょうか。
この運転手さんは、あとからこのことに、声をかけた理由について、「お母さんの焦りをひしひし感じた」と振り返り、「みんな泣いて、育ったんですからね」と、語ったそうです。
赤ちゃんが、泣くのは至極当たり前のこと。
泣いている本人は、わけがわかっていないからいいのです。
大変なのは、その赤ちゃんを連れている、親御さんですよね。
恐縮しているお母さんへ、周りの人が優しい言葉を、かけているのを見ると、こっちまで心が、温かくなってきます。
赤ちゃんは、泣いて大きく育つのです。
泣く赤ちゃんをみんなで、優しく見守りましょう。
