1998年の長野オリンピックの時の話です。
何しろオリンピックですから、観戦客や報道陣やらたくさんの人たちが、どっと長野に押し寄せました。
長野での主な移動手段は、タクシーです。
地元のタクシー会社は、あっという間に、予約で満杯に。
どのタクシー会社のタクシーも、「貸し切り状態」になったのです。
そんな状況の中、たった1社だけ、「貸し切りお断り」をつらぬいた、タクシー会社がありました。
長野市に本社を持つ「中央タクシー株式会社」です。
当初は、同社も貸し切り予約を受けていたそうです。
しかし、ひとりの社員が、こんなことを言ったのです。
「オリンピックの大会中、いつもうちのタクシーで、病院に通っている、あのおばあちゃんは、どうするのだろう?」
その言葉がきっかけになり、社員たちの間で「いつも自分たちのタクシーを、使ってくれる地元住民の足を守らないでよいのか?」という議論が起こります。
それを受けて、経営者は「オリンピック期間中も、貸し切りを断って、通常営業を続ける」という決定をしたのです。
もちろん、こんな英断を下したのは、中央タクシーだけ。
他社は期間中、いつもの3倍を売り上げました。
期間中は、まさに中央タクシーだけが「1人負け」。
でも、オリンピックは、あっという間に終わります。
オリンピック特需に湧いたタクシー会社は、その閉幕と共に、お客を失いました。
一方、地元の人たちの足を守り抜いた、中央タクシーだけは、オリンピックが終わっても、ビクともしませんでした。
いや、それどころか、オリンピックの前までは、他社のタクシーを使っていた、地元民たちまでも、中央タクシーに、乗ってくれるようになったのです。
誰でも、目先の利益を求めすぎて、大切なことを忘れてしまいます。
自分たちにとって、本当に大切にすべき人は、誰なのでしょう。
中央タクシー会社は、利益より日々のお客様を、大切にしたのです。
日々のお客様あってこその仕事なのです。
「お客が先、利益は後」なのです。