プロとして常に備えよう 1107


「靴磨きの名人」の通称「靴磨きの源ちゃん」の話です。
永田町の東急ホテルの地下3階にあった店で、40年にわたって、多くの政治家や有名人の靴を、磨き続けてきた人です。

「靴磨き」を勉強するために、源ちゃんに自分の靴を磨いてもらったある人は、その仕上がりの素晴らしさを見て、「腕前が違いすぎる。マネできない。勉強にならない」と舌を巻いたそうです。
彼は、政治家だけでなく、オードリー・ヘップバーンやマイケル・ジャクソンなど、世界的なスターの靴も磨いてきましたが、源ちゃんが磨いた靴を見たヘップバーンが「靴って、こんなに光るものなの?」と驚いたという話も残っています。

どうして、源ちゃんが磨いた靴は、そんなにも美しく光るのでしょう。
彼によれば、「神業」の秘密のひとつは「靴磨き用クリーム」なのだとか。

源ちゃんが使う靴クリームは、数種類。
もちろん自分で、各種のクリームを調合したオリジナルです。
理想のクリームを作る研究のために、各メーカーの靴クリームの成分分析を、東京理科大学に依頼した事もあるそうです。
このクリームを、磨く靴の種類や皮の状態、さらに季節やその日の湿度などを考えて、使い分けている。

もちろん、源ちゃんの研究は、靴クリームにとどまりません。
なんと彼、研究のために、高級ブランドの靴を、惜しげもなく買っているのです。
銀座や赤坂の靴屋を見て回り、新しいブランド品の靴が輸入されていると見るや、それがどんなに高い靴でも、何の躊躇もなく購入する。
そして、家で磨いてみて、その靴の「革の性質」や「耐久性」などを確かめる。
どうやって磨くのが良いのか徹底的に調べて、その靴に1番合ったクリームを決定します。

源ちゃんの「備え」は、それだけではありません。
外国のお客も多いので、英語はペラペラで、なんと、フランス語でも会話ができるのです。
さらに、頼まれれば、靴の修理までやってしまう。
靴の修理技術は、イギリスやイタリアの革職人を訪ねて、「見よう見まねで覚えた」というのですから恐れいります。

「どうしてそこまでするの?」とある人が、源ちゃんに尋ねた時、彼はサラリとこう答えたそうです。
「まあ、プロだからね」

プロとして誇りを持ち、どんなブランドの靴磨きの依頼が来ても、大丈夫なように「常に備えて」いる源ちゃん。
備えが万全な「本物のプロ」は、無敵。
まさに「百戦危うからず」です。

2023年09月01日