反実仮想で危機管理を 818


これからの時代は、危機管理が特に重要です。
そのためには、反実仮想(はんじつかそう)を、活かすことがいいでしょう。

反実仮想は、事実と反対のことを、想定することの思考実験の一つです。
「もし~だったら…だろうに」のような言い方になります。

フランスの哲学者のパスカルは、有名な随想『パンセ』のなかで、「クレオパトラの鼻がもうすこし低かったら、世界の歴史の局面は、変わっていただろう」と、述べています。

エジプトの女王クレオパトラは、楊貴妃とならぶ「絶世の美女」と、目されています。
つまりパスカルは鼻の大小など、ささいなことで歴史の局面が、変わるということを、修辞的に言いたかったようです。

パスカルは、このように反実仮想で、歴史の局面を表現しています。
「歴史の局面が、本当に変わったのだろうか」と考えると、結果の違いが推測できます。

ここで、次のような反実仮想が、考えられます。

○日本が戦争に負けていなかったら、経済発展はできなかっただろう。
○原爆が落とされなかったら、もっと多くの人が、死んだはずだ。
○小選挙区制に変わってなかったら、政権交代も起きなかっただろう。
○ブッシュが、2000年の大統領選挙で当選していなかったら、イラク戦争は起きなかったはずだ。

このような反実仮想から、多くのことが考えられ、思考が深まるのです。
ここで、薩摩藩が男子を集めて行った、郷中教育を紹介します。

画一的な指導要領もなく、学習は講義でなく、「詮議(せんぎ)」と呼ばれるもので、意見を述べ合う、デベート形式の学習でした。
「詮議」は、いわゆるケーススタディで、仮想現実をいろいろ想定して、「もし○○が起こったら自分はどうするか」ということを、徹底的に考えされる教育だったのです。
小さい頃から、こういう思考方法を繰り返して、危機管理能力を養ったのです。

幕末の薩長同盟6か条には、次のように書かれています。

1,戦いとなった時は、直ちに薩摩は2000余人の兵を上京させ、大阪にも1000人程度配置して、京都大阪を固めること
1,戦いで長州の勝利が近づいたら、薩摩は朝廷に働きかけて、長州の名誉回復のために尽力すること
1,万一に長州の敗色が濃くなっても、一年や半年で壊滅することはないので、その間に薩摩は援護に尽力すること
1,幕府の兵が引き上げたときには、薩摩は到底に働きかけて、長州の冤罪をはらすために尽力すること
1,一橋、会津、桑名らの兵が、朝廷を利用して薩摩の妨害をするようなら、薩摩も決戦に及ぶこと
1,長州の冤罪が許されたら、薩長両藩は誠意を持って力を合わせ、国家のため天皇の威光回復のために誠心誠意尽力すること

このようにいろいろなケース(勝利や敗色等)を想定して、具体的にどうするかを、明確に書かれています。
これも反実仮想の成果であろうと思います。

☆もし今の仕事が、途中で上手くいかなくなったら?
☆もし大雨で、家の近くの川が決壊したら?
☆もし銀行が会社との取引を、急にストップしたら?
☆もしつき合っている人から、別れを告げられたら?
☆もし預貯金が、まったくなくなってしまったら?

このような現実に起こりそうもない未来のことを、反実仮想であれこれと創造し、具体的な戦略や対策を考えてみましょう。
どれだけ広く・深く・長く考えることができるかで、適切な危機管理ができ、未来がさらに明るく輝いてくることでしょう。

2020年10月17日