見返りを絶対求めない 767

世の中には、大変徳のある人がいます。
人が、喜ぶこと、楽しいこと、感動することなど良いことを、自ら積極的にする人です。
そんな人は、必ずと言っていいほど、あることをしません。
そのあることとは、「見返りを絶対求めない」ことです。
徳がない人は、次のようなことをよく言います。
○優しくしたのに、そのお礼も言わない。
○少しお金をやったのに、お金を返さない。
○仲良くしてあげたのに、電話もかけてこない。
○お歳暮をしたのに、相手からの返礼品がこない。
このように徳があることをすれば、その見返りがくると考えているのです。
これでは、徳がある人とは、決して言えません。
戦国時代に、上杉謙信という大名がいました。
その謙信が、長尾景虎(かげとら)と呼ばれていたころの話です。
景虎は越後の国(新潟県)で、農民のために良政を行い、年貢を軽くするなど、善意をほどこすように努めていました。
しかし、なかなか農民たちの反乱が絶えません。
そこで、あるとき、子どものころお世話になったお寺の住職に「これだけのことをしてあげているのに、農民は私の気持ちを理解してくれない」と、グチをこぼしました。
すると、住職は次のように、助言したのです。
「これだけのことをしてあげている、という気持ちがある限り、反乱は治まりませんよ。『してあげている』ではなく、『したいからさせていただく』という気持ちを、持つようにしなさい」
住職からこう言われた景虎は、大いに反省し、以来「したいからさせていただく」という気持ちで、良政に努めたところ、程なくして、ウソのように反乱が治まったのです。
自分は徳を積んでいると思っても、見返りを期待した徳であれば、誰からも喜ばれません。
見返りを絶対求めない徳こそが、本当の徳なのです。
人が喜ぶこと、楽しむこと、感動することを、自分の生きがいとしましょう。
そうすると見返りがなくても、心安らかに徳を積むことができるのです。
